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いわゆる一つのリハビリ。
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実に感慨深い声色で言うものだから、思わず青ざめてしまった。

「子供かぁ。」

放たれたその一言にアルフレッドは身を翻さずにはいられない。
事を終え、さて明日の昼まで寝こけてやろうかと瞼を閉じた瞬間のことだった。
今にも頭大丈夫?とでも言い出しそうな顔を貼り付け、米国的オーバーアクションで身構えた相手を見やり、アーサーはあからさまに顔を顰めて見せた。

「何だよ、その反応。」
「いや君が如何にペド趣味であるかは嫌と言うほど知っていたけどもね。頭が少し所かドが過ぎて可笑しいところも理解はしていたけどもね。常識ぶった非常識な奴だってことも分かっていたけどもね。それでも・・・俺はゴメンだぞ。」
「まだ何も言ってねぇのによくそれだけ人のことを否定出来るなお前。」
「だって君、今俺との子供が欲しいとか思ったろ。」
「・・・・・・・・。」

無言は肯定とみて間違いはない。
途端に重い息を吐き出した相手に、手元の煙草に火をつけながらアーサーは反論にも満たない呟きを漏らす。

「別に・・・・ちょっとジョークで言っただけじゃねぇか。」
「へぇ、君に冗談の概念があったとは驚きだ。」
「厭に絡むな、何怒ってんだよ。」
「怒ってないよ、飽きれ返ってるだけさ。」

その割りには語尾が吐き捨てるような物言いだ。
それを指摘したところで相手のヘソを更に曲げる結果となるだけなので、敢えてアーサーは何も言わない。
だから代わりに、黙って髪を撫ぜる。幼い頃の面影を残したその美しい琥珀に指を絡ませ、静かに唇を落とす。
本人は断固として認めようとしないが、こうしてやれば判りやすく大人しくなるのだ。この大きな子供は。

当のアルフレッドも何だかんだでそれを自覚している。彼の指先はとても苦い癖に触れれば途端に甘くなるのだ。
けれども、何処かいい様に言いくるめられている気がしてならないのもまた真実。
素直に擦り寄っていけるほど、自分はもう唯の無知な餓鬼ではない。
だから分かっているのだ。彼がふと呟いた望みは、自分が国であり男である限り叶えてやれないことも。
多くを望みすぎ、結果去っていったアルフレッドに、アーサーはもう大した望みを言わなくなった。その身一つ傍にいればいいのだと、らしくもない下手な口説きで以て自分を抱きしめるのだ。その指の震えからそれが彼の見出した最大限の妥協と愛だったことを自分は知ることとなる。

何もかもが、もどかしくて仕方が無い。
赤く染まりつつある頬や目頭に溜まる熱、全てを隠すかのようにアルフレッドは布団を覆い被る。
今日はハンバーガーに多量のピルでも混ぜてやろうと思った。

end.

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不服かい、と聞かれたからそうでもないよ、と答えてみせる。存外嘘でもない。
だというのに彼は決まって顔を顰めるのだ。例え自分がその問いに肯定してみせたとて、返ってくる反応は同じに違いない。素直に意見を述べた所でどうやっても彼の癪に触れずにはいられないのだ。
其れは自分がこの大国の名を背負う以上致し方ないことでもある。
仮に逆の立場に己が立ったとして、彼の問いにどれだけの感情を込めて返せるかどうか。

しかし面白い関係ではある。仕事関係ならばともかく、プライベートでも今こうして同じ部屋で同じ時を共有している事実が、だ。
自分から訪れておいて苛々を隠そうともせず癇癪をぶちまける彼、そんな男を追い返すでもなく何故か持て成して曖昧な相槌と笑みを返す自分。門前払いなどお手の物だというのに、何も言わずに招き入れてしまった自分の一連の動きが今更ながら不思議でならない。
しかし冒頭のやり取りの通り、然程悪い気もしない。

普段ヒーローだなんだと喚き散らすアルフレッドも、こうして日常の中に溶け込めばヒステリックに眉を顰めることもある。彼に好かれる国々は彼のこんな表情など見たことも、想像することさえ出来ないに違いない。
強大な彼に真正面から向き合える自分だからこその特権だ。その方向性が嫌悪によるものだろうが、些細な優越感はこの胸を満たす。
だから案外楽しんでいたりするのだ、彼とのこの曖昧で且つ危なげな橋渡りを。

ちらりと視線を寄越せば「なんだい、」とまた彼は訝しげに目を細めた。
逆に、アルフレッドが何故自分に無意味なまでに関わりを持とうとするのか、それは最早彼の態度から見て判るとおり上司からの命令に他ならないだろう。漬け込める隙を探しているのか単に友好的関係を望んでいるのか。
それを宣告された時の彼の表情をぜひ拝ませて欲しいと思った。

「さっきから何なんだい、俺の顔に文句でも?」
「いや、ただ君の阿呆面って可愛いよね、って。」


end.
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